fbpx

コンテンツ CONTENT

【食器乱読】宮木英至 ドリッピーマグ

【食器乱読】宮木英至 ドリッピーマグ

店主が集めたお気に入りの食器について、あちこち脱線しながら掘り下げていく食器乱読シリーズ。
今回はぽってりしたアイシングのような釉薬が特徴的な『ドリッピーマグ』についてご紹介します。

垂れる釉薬のインパクトたるや

シンプルな佇まいながら、垂れ落ちる釉薬のインパンクが抜群ですよね。
まるでパウンドケーキにかかるアイシングのよう。
ぽってりと光沢のある感じがなんとも可愛らしく、美味しそうです。

そもそも釉薬(ゆうやく)について、簡単に解説しておきます。
『うわぐすり』とも呼ばれまして、陶磁器に色をつけたり、光沢を与えたり、防水性を高めるために使われます。
草木を焼いた灰や白い土を水に溶いたり、焼くと色が変わる物質を合成したものだったり、中身は様々です。

基本的には薄く均一に塗るものですが、ブランドや作家さんによってはあえて塗りムラを出したり分厚く塗ることによって、手作りならではの味や重厚感の表現するためにも使われます。

それを思いっきり突き詰めたのがこのドリッピーマグと言えますね。

全行程が手作りゆえに・・

このドリッピーマグ、『鋳込み』という磁器ならではの製法によって作られます。鋳込みについては後ほど詳しくお話しますが、基本的には工場での大量生産に向いた製法なんですね。
それを作家の宮木さんはあえて全行程を手作業にすることで新しい表現に挑戦されています。

見てください。
今、手元には11個のドリッピーマグがあるのですが、すべて釉薬のたれ具合が違います。
誤差があるなんてレベルじゃありません。量そのものがまるで違うんです(笑)。

これを味と呼ばずしてなんと呼ぶといったところですね。
個人的には下に垂れ落ちるくらいたっぷりかかったものが好きですが、上品にまとまっているものも魅力的。

一つとして同じものがないという、手作りの良さを体現した作品です。

じっくり鑑賞ー取っ手

店主は取っ手マニアでして、カップの個性的な取っ手を愛でるのが好きです。
ドリッピーマグの取っ手は愛で甲斐がありますね。
なんたって、一つ一つ、釉薬のかかり具合が違うんですから。


これはスタンダードな感じ。
上1/3くらいでまとまっている上品な仕上がり。
カップを持った時、親指でツルツルを感じつつ、他の指は素地のザラザラした部分に当たるため、2種類の感触を楽しめます。



これはなかなかのつゆだく。
釉薬に相当粘りがあるのか、こんな今にも垂れ落ちそうな状態で固まるものなんですね。



これはつゆだくオーバー(笑)。
このやりすぎ感、好きです。

じっくり鑑賞ー内側

内側は均一に薄く釉薬でコーティングされています。
ドリッピーマグは磁器なので、飲み物の色などが染み込むことはほぼ無いのですが、コーティングがあることでさらに万全になっていますね。

じっくり鑑賞ー底面

底はシンプル&フラット。
ものによっては、釉薬が完全に下まで垂れ落ちているものもあるんですが、ちゃんと水平に慣らされています。
釉薬があってガタつくとか、座りが悪いということはないのでご安心を。

じっくり鑑賞ーカラーバリエーション

色の種類が多いのも特徴。
当店で今のところ取り扱っているのは、イエロー、カーキ、ブルーグレー、ブラック、ホワイトの5色。

この他にも素地がライドブルーのものや、釉薬が黒いものなどもあるようです。
ドリッピーマグは好きな方には激ハマりするため愛好者が多く、中々仕入れるのが難しいのです。。。
生産量も多いわけではないのであまり出回らないのですが、そこは手作業ゆえの愛すべき点かもしれませんね。

ルーツ

陶芸作家、宮木英至さんの作です。
岐阜県の多治見市に工房を構えており、鋳込み(いこみ)という技法を用いて作陶されています。
2008年にはMoMA(ニューヨーク近代美術館)のショップにも作品が出品されました。

MoMA、関東だと表参道にありますね。
一ひねり効いた普段使いできる雑貨が所狭しと並び、物色しているだけで美術館を巡ったような豊かな気分になれます。もちろん入場料はタダ。おすすめです。

このドリッピーマグの他にもデニム生地のような深みのあるインディゴと、南国の海を思わせる鮮やかで美しいナイルブルーの作品が特に人気です。

宮木英至さんオフィシャルサイト

宮木さんインスタグラムアカウント(ドリッピーマグの写真もいっぱいあります)

鋳込み

鋳込みは磁器に特徴的な技法で、主に大量生産する時に用います。
石膏で型をつくって、素地となる泥を流し込んで焼成します。
金属製品を作る時、ドロドロに溶けた素材を型に流し込んで作る様子を見たことがあるかもしれません。
だいたいあのようなイメージです。

一つ一つ、手で成形するのと違って型さえあれば一気にできますから、市販されている磁器の多くはこの鋳込みが多いんじゃないかと思います。
っていうと、無個性なものが出来るように思われがちですが、マグが放つ華々しいまでのオーラはご覧の通り。
一般的には分業にて行われる鋳込みを全てご自身の手で行うことにより、新しい個性や表現を獲得されています。

多治見市

岐阜県の南、愛知県との県境に位置します。
愛知県の焼き物産地、瀬戸市のお隣です。

多治見も焼き物の名産地であり、ここで作られた陶磁器は多治見焼と呼ばれます。
最も、このあたりは焼き物が非常に盛んであり、【土岐市、多治見市、瑞浪市、可児市】で作られたものは総称して美濃焼と呼ばれます。こちらのほうがよく使われる言葉かもしれません。

2007年には夏の最高気温が40.9℃と当時の日本最高を記録。
陶磁器を焼く窯から発する熱気が原因の一つだとか(なんてね)。

眺めても使っても楽しいマグです

宮木さんは『観ても使っても楽しめる器、暮らしに溶け込む物づくり』をコンセプトにされているのですが、まさにそれを体現したうつわだと思います。

ドリッピーマグは目でデザインを楽しみつつ、直接口をつけることでまた違った角度からカップのデザインを感じることができます。

普段お使いのマイカップから少し気分転換してみると、新しい楽しみが発見できるかもしれませんよ。

この食器をレンタルしたい場合はこちら